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「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
「あゝ、高間さんの奥さん。――さうですね」
「鬼倉といふのは女を二人置いとるさうぢやないか」
「や、さうですか。僕も今そこから帰るところです」
「畜生、弱い奴だ」と、根津は笑った。
「何かの、いつたいあの山を掘つても引合ふのかな」
「私もこれで元は法律書生でしてね。司法官か弁護士試験でも受けるつもりで、神田の私立大学に通つていたもんです」
小谷は房一に話しかけた。
「ね、どこも悪くない。だが、その丈夫な身体の中に虫が巣をつくつとる。いゝかね、心臓病とか腎臓病とかいふやうなものではない。虫を駆除する、つまり身体から出してしまへばあんたの身体はもと通りぴんぴんして来る。悪い虫だが、とつてしまへばよいのだから、他の病気よりは性質はいゝと云ふことになる。――判つたかね」
彼はそれを云ひに来たのだつた。
まだぎこちなく坐つて伏目に固くなつている堂本の様子から、自分が誰かといふことは判つてはいるのだなと思つた房一は、
と、房一が台所に声をかけた。